非農用地区域に換地処分する旨を約した土地改良区と地権者との覚書

1 関連する判例
換地処分前に、関係者がその内容に関して約束したことについて、下記の判例がある。
(1)一時利用地指定取消請求事件(秋田地裁昭和60年10月14日判決)(昭和46年(行ウ)7号)
換地委員長が特定の組合員に、「(変更)計画時に貴殿の要望に沿う様努力いたしますことを約束します。」という内容の文書を渡したことに関して、具体的な請求権を発生させる内容ではなく、そもそも、土地改良事業は多数の者の利害を調整してその内容を実現していくという公共的性格を有し、法定の諸手続を経て最終的な換地処分に至るものである。したがってその途上で何人といえども、特定の組合員に特定の換地を約束するということはできず、また約束をしたとしてもそのような契約は無効というべきであると判示。
(2)換地処分取消請求事件(秋田地裁昭和60年11月8日判決)(昭和57年(ワ)16号)
県営土地改良事業において、県出先機関の長が、「貴殿が納得する箇所に田地として換地するようにいたします。」という内容の念書を差し出したにもかかわらず、原告が同意しない土地に換地処分されたと訴えたことに対し、念書は具体的な場所を念頭に置いて作成されたものではなく、具体的な換地計画案もなく、照応の原則も満たしており、換地処分は念書の趣旨に反していない。また、出先機関の長に具体的な換地場所を決定する権限がないことは明らかであり、念書は努力目標ないし紳士協定であり、これに法的拘束力を認めることはできないと判示。
(3)換地指定念書違反損害賠償請求事件(秋田地裁昭和60年11月8日判決)
上記(2)と同じ案件。国家賠償法及び民法第709条(不法行為)に基づく賠償請求が提起された。
実際の換地処分は、念書の趣旨に反しておらず、念書の差し入れに何ら違法性はないと判示。

2 覚書の性格
(1)土地改良法との関係
非農用地区域に換地処分をするためには、土地改良事業計画の変更や、権利者会議での議決等、土地改良法所定の手続が必須であり、その途上で何人といえども、特定の換地を約束することができないのは、上記2の(1)判決のとおりである。
上記との覚書の内容は、当然、土地改良法による制約を受けることが前提であり、土地改良法上不可能なことを履行する義務はない。不能条件による契約は無効である。
また、地権者は施設建設に関する法律上の要件を満たせば、非農用地区域の用途とすべきである旨主張したとしても、非農用地区域に換地処分するかどうかの判断は、一に権利者の総意にかかっており、施設設置に係る一般的な要件とはかかわりがない。
なお、土地改良法の手続は公表されているものであり、何人といえども、これを知らない、想定していないという抗弁は成り立たない。
(2)覚書の性格
上記(1)及び上記1の各判例により、覚書は土地改良法による制約を前提として締結されたものであり、いかなる場合にも非農用地区域に換地処分することを約束したものとして、それに法的拘束力を認めることはできない。
覚書は、法令の制約の範囲内で、非農用地区域への換地処分を目指す努力目標であり、そのために信義をもって、協議することを約した契約であると解される。

  

3 覚書と換地処分の効力
特定の者との換地処分に係る契約には法的拘束力はなく、土地改良法所定の手続を適正に踏んだ換地処分を行えば、その処分の効力に影響はないと解されている。(上記判例のとおり)なお、地権者が、覚書に関して、民法の規定により拘束力があることを主張しても、仮に民法に抵触するとしても、それは、覚書締結の相手方に対する損害賠償請求ができるだけであり、換地処分そのものの効力にはなんら関係しない。

4 覚書の記載と異なる内容の換地処分を行った場合又は覚書を破棄した場合の賠償責任
上記1の(3)の判例では、民法第709条(不法行為)による損害賠償請求が棄却されている。また、損害賠償請求は、民法第415条(債務不履行)によっても可能である。
いずれの場合も、加害者又は債務者の故意又は過失及び被害者又は債権者の損害の要件をいずれも満たすことにより成立するが、下記のとおり、土地改良区はいずれの要件も満たさない。
(1)故意又は過失
覚書は、上記のとおり、努力目標であり、地権者と協議を行うことを約したものである。
覚書の内容に制約があることは上記2のとおりであり、地元権利者の同意がなければ、どの用途であれ、非農用地区域の設定は不可能であることは、双方了解の上で締結しているものである。土地改良区に故意又は過失は認められないし、そもそも、債務の不履行の事実がない。
(2)損害の有無
地権者の従前地は農地であり、仮に農地から農地への換地処分を行っても、農地としての照応がとれていれば、財産権の侵害はない。
農地の転用は、農地として換地処分された後でも、本人の努力でできるものであって、換地処分の際に非農用地区域に換地処分しなければできないものではない。
また、換地処分前と処分後で土地の所有や使用収益の制約に変動が生じるわけではなく、うべかりし利益もない。
なお、非農用地区域にならなければ、地区編入に同意しなかったという抗弁も考えられるが、農地の地区編入は、地区内の3条資格者の3分の2以上の同意(土地改良法第85条第2項)で足り、当該抗弁は認められない。

5 その他
(1)損害賠償請求の時期
仮に地権者が上記4の損害賠償請求を裁判所に起こしたいと考えても、非農用地区域に換地処分しないことが確定するのは、全体の換地処分がなされたときであり、それまでは提訴する理由がない。
また、仮に提訴がされたとしても、これにより、換地処分の手続が中断されることはない。
(2)仮処分請求等
地権者が裁判所に対し、土地改良事業の差し止めや非農用地区域への換地処分を求める裁判を起こすことはできない。(行政事件訴訟法に義務づけ訴訟の規定がなく、同法第44条で仮処分が排除されている。)

1 関連する判例
換地処分前に、関係者がその内容に関して約束したことについて、下記の判例がある。
(1)一時利用地指定取消請求事件(秋田地裁昭和60年10月14日判決)(昭和46年(行ウ)7号)
換地委員長が特定の組合員に、「(変更)計画時に貴殿の要望に沿う様努力いたしますことを約束します。」という内容の文書を渡したことに関して、具体的な請求権を発生させる内容ではなく、そもそも、土地改良事業は多数の者の利害を調整してその内容を実現していくという公共的性格を有し、法定の諸手続を経て最終的な換地処分に至るものである。したがってその途上で何人といえども、特定の組合員に特定の換地を約束するということはできず、また約束をしたとしてもそのような契約は無効というべきであると判示。
(2)換地処分取消請求事件(秋田地裁昭和60年11月8日判決)(昭和57年(ワ)16号)
県営土地改良事業において、県出先機関の長が、「貴殿が納得する箇所に田地として換地するようにいたします。」という内容の念書を差し出したにもかかわらず、原告が同意しない土地に換地処分されたと訴えたことに対し、念書は具体的な場所を念頭に置いて作成されたものではなく、具体的な換地計画案もなく、照応の原則も満たしており、換地処分は念書の趣旨に反していない。また、出先機関の長に具体的な換地場所を決定する権限がないことは明らかであり、念書は努力目標ないし紳士協定であり、これに法的拘束力を認めることはできないと判示。
(3)換地指定念書違反損害賠償請求事件(秋田地裁昭和60年11月8日判決)
上記(2)と同じ案件。国家賠償法及び民法第709条(不法行為)に基づく賠償請求が提起された。
実際の換地処分は、念書の趣旨に反しておらず、念書の差し入れに何ら違法性はないと判示。

2 覚書の性格
(1)土地改良法との関係
非農用地区域に換地処分をするためには、土地改良事業計画の変更や、権利者会議での議決等、土地改良法所定の手続が必須であり、その途上で何人といえども、特定の換地を約束することができないのは、上記2の(1)判決のとおりである。
上記との覚書の内容は、当然、土地改良法による制約を受けることが前提であり、土地改良法上不可能なことを履行する義務はない。不能条件による契約は無効である。
また、地権者は施設建設に関する法律上の要件を満たせば、非農用地区域の用途とすべきである旨主張したとしても、非農用地区域に換地処分するかどうかの判断は、一に権利者の総意にかかっており、施設設置に係る一般的な要件とはかかわりがない。
なお、土地改良法の手続は公表されているものであり、何人といえども、これを知らない、想定していないという抗弁は成り立たない。
(2)覚書の性格
上記(1)及び上記1の各判例により、覚書は土地改良法による制約を前提として締結されたものであり、いかなる場合にも非農用地区域に換地処分することを約束したものとして、それに法的拘束力を認めることはできない。
覚書は、法令の制約の範囲内で、非農用地区域への換地処分を目指す努力目標であり、そのために信義をもって、協議することを約した契約であると解される。

  

3 覚書と換地処分の効力
特定の者との換地処分に係る契約には法的拘束力はなく、土地改良法所定の手続を適正に踏んだ換地処分を行えば、その処分の効力に影響はないと解されている。(上記判例のとおり)なお、地権者が、覚書に関して、民法の規定により拘束力があることを主張しても、仮に民法に抵触するとしても、それは、覚書締結の相手方に対する損害賠償請求ができるだけであり、換地処分そのものの効力にはなんら関係しない。

4 覚書の記載と異なる内容の換地処分を行った場合又は覚書を破棄した場合の賠償責任
上記1の(3)の判例では、民法第709条(不法行為)による損害賠償請求が棄却されている。また、損害賠償請求は、民法第415条(債務不履行)によっても可能である。
いずれの場合も、加害者又は債務者の故意又は過失及び被害者又は債権者の損害の要件をいずれも満たすことにより成立するが、下記のとおり、土地改良区はいずれの要件も満たさない。
(1)故意又は過失
覚書は、上記のとおり、努力目標であり、地権者と協議を行うことを約したものである。
覚書の内容に制約があることは上記2のとおりであり、地元権利者の同意がなければ、どの用途であれ、非農用地区域の設定は不可能であることは、双方了解の上で締結しているものである。土地改良区に故意又は過失は認められないし、そもそも、債務の不履行の事実がない。
(2)損害の有無
地権者の従前地は農地であり、仮に農地から農地への換地処分を行っても、農地としての照応がとれていれば、財産権の侵害はない。
農地の転用は、農地として換地処分された後でも、本人の努力でできるものであって、換地処分の際に非農用地区域に換地処分しなければできないものではない。
また、換地処分前と処分後で土地の所有や使用収益の制約に変動が生じるわけではなく、うべかりし利益もない。
なお、非農用地区域にならなければ、地区編入に同意しなかったという抗弁も考えられるが、農地の地区編入は、地区内の3条資格者の3分の2以上の同意(土地改良法第85条第2項)で足り、当該抗弁は認められない。

5 その他
(1)損害賠償請求の時期
仮に地権者が上記4の損害賠償請求を裁判所に起こしたいと考えても、非農用地区域に換地処分しないことが確定するのは、全体の換地処分がなされたときであり、それまでは提訴する理由がない。
また、仮に提訴がされたとしても、これにより、換地処分の手続が中断されることはない。
(2)仮処分請求等
地権者が裁判所に対し、土地改良事業の差し止めや非農用地区域への換地処分を求める裁判を起こすことはできない。(行政事件訴訟法に義務づけ訴訟の規定がなく、同法第44条で仮処分が排除されている。)

1 関連する判例
換地処分前に、関係者がその内容に関して約束したことについて、下記の判例がある。
(1)一時利用地指定取消請求事件(秋田地裁昭和60年10月14日判決)(昭和46年(行ウ)7号)
換地委員長が特定の組合員に、「(変更)計画時に貴殿の要望に沿う様努力いたしますことを約束します。」という内容の文書を渡したことに関して、具体的な請求権を発生させる内容ではなく、そもそも、土地改良事業は多数の者の利害を調整してその内容を実現していくという公共的性格を有し、法定の諸手続を経て最終的な換地処分に至るものである。したがってその途上で何人といえども、特定の組合員に特定の換地を約束するということはできず、また約束をしたとしてもそのような契約は無効というべきであると判示。
(2)換地処分取消請求事件(秋田地裁昭和60年11月8日判決)(昭和57年(ワ)16号)
県営土地改良事業において、県出先機関の長が、「貴殿が納得する箇所に田地として換地するようにいたします。」という内容の念書を差し出したにもかかわらず、原告が同意しない土地に換地処分されたと訴えたことに対し、念書は具体的な場所を念頭に置いて作成されたものではなく、具体的な換地計画案もなく、照応の原則も満たしており、換地処分は念書の趣旨に反していない。また、出先機関の長に具体的な換地場所を決定する権限がないことは明らかであり、念書は努力目標ないし紳士協定であり、これに法的拘束力を認めることはできないと判示。
(3)換地指定念書違反損害賠償請求事件(秋田地裁昭和60年11月8日判決)
上記(2)と同じ案件。国家賠償法及び民法第709条(不法行為)に基づく賠償請求が提起された。
実際の換地処分は、念書の趣旨に反しておらず、念書の差し入れに何ら違法性はないと判示。

2 覚書の性格
(1)土地改良法との関係
非農用地区域に換地処分をするためには、土地改良事業計画の変更や、権利者会議での議決等、土地改良法所定の手続が必須であり、その途上で何人といえども、特定の換地を約束することができないのは、上記2の(1)判決のとおりである。
上記との覚書の内容は、当然、土地改良法による制約を受けることが前提であり、土地改良法上不可能なことを履行する義務はない。不能条件による契約は無効である。
また、地権者は施設建設に関する法律上の要件を満たせば、非農用地区域の用途とすべきである旨主張したとしても、非農用地区域に換地処分するかどうかの判断は、一に権利者の総意にかかっており、施設設置に係る一般的な要件とはかかわりがない。
なお、土地改良法の手続は公表されているものであり、何人といえども、これを知らない、想定していないという抗弁は成り立たない。
(2)覚書の性格
上記(1)及び上記1の各判例により、覚書は土地改良法による制約を前提として締結されたものであり、いかなる場合にも非農用地区域に換地処分することを約束したものとして、それに法的拘束力を認めることはできない。
覚書は、法令の制約の範囲内で、非農用地区域への換地処分を目指す努力目標であり、そのために信義をもって、協議することを約した契約であると解される。

  

3 覚書と換地処分の効力
特定の者との換地処分に係る契約には法的拘束力はなく、土地改良法所定の手続を適正に踏んだ換地処分を行えば、その処分の効力に影響はないと解されている。(上記判例のとおり)なお、地権者が、覚書に関して、民法の規定により拘束力があることを主張しても、仮に民法に抵触するとしても、それは、覚書締結の相手方に対する損害賠償請求ができるだけであり、換地処分そのものの効力にはなんら関係しない。

4 覚書の記載と異なる内容の換地処分を行った場合又は覚書を破棄した場合の賠償責任
上記1の(3)の判例では、民法第709条(不法行為)による損害賠償請求が棄却されている。また、損害賠償請求は、民法第415条(債務不履行)によっても可能である。
いずれの場合も、加害者又は債務者の故意又は過失及び被害者又は債権者の損害の要件をいずれも満たすことにより成立するが、下記のとおり、土地改良区はいずれの要件も満たさない。
(1)故意又は過失
覚書は、上記のとおり、努力目標であり、地権者と協議を行うことを約したものである。
覚書の内容に制約があることは上記2のとおりであり、地元権利者の同意がなければ、どの用途であれ、非農用地区域の設定は不可能であることは、双方了解の上で締結しているものである。土地改良区に故意又は過失は認められないし、そもそも、債務の不履行の事実がない。
(2)損害の有無
地権者の従前地は農地であり、仮に農地から農地への換地処分を行っても、農地としての照応がとれていれば、財産権の侵害はない。
農地の転用は、農地として換地処分された後でも、本人の努力でできるものであって、換地処分の際に非農用地区域に換地処分しなければできないものではない。
また、換地処分前と処分後で土地の所有や使用収益の制約に変動が生じるわけではなく、うべかりし利益もない。
なお、非農用地区域にならなければ、地区編入に同意しなかったという抗弁も考えられるが、農地の地区編入は、地区内の3条資格者の3分の2以上の同意(土地改良法第85条第2項)で足り、当該抗弁は認められない。

5 その他
(1)損害賠償請求の時期
仮に地権者が上記4の損害賠償請求を裁判所に起こしたいと考えても、非農用地区域に換地処分しないことが確定するのは、全体の換地処分がなされたときであり、それまでは提訴する理由がない。
また、仮に提訴がされたとしても、これにより、換地処分の手続が中断されることはない。
(2)仮処分請求等
地権者が裁判所に対し、土地改良事業の差し止めや非農用地区域への換地処分を求める裁判を起こすことはできない。(行政事件訴訟法に義務づけ訴訟の規定がなく、同法第44条で仮処分が排除されている。)