土地改良事業に係る地域への共有の農用地以外の土地の編入同意
1 土地改良法の規定
(1)土地改良事業に係る地域への編入同意
土地改良事業にあたっては、その施行に係る地域を定める必要がある。(土地改良法第5条第1項)
そして、その地域内の農用地(耕作の目的又は主として家畜の放牧の目的若しくは養畜の業務のための採草の目的に供される土地)の耕作者(例外あり)の3分の2以上の同意を得なければならない。(土地改良法第5条第2項)
更に、建築物の敷地、墓地、境内地その他の農用地以外の土地については、その土地の所有権、地上権、永小作権、質権、賃借権、使用貸借による権利又はその他の使用及び収益を目的とする権利を有する者の全員の同意を要する。使用及び収益を目的とする権利を対象とするため、例えば抵当権者の同意を得る必要はない。(土地改良法第5条第7項)
(2)予想される問題
土地改良法上、農用地については、原則として耕作を行っている者について、同意を求めればよく、耕作の権限を得るためには農業委員会の許可を得る必要があるし、土地改良区が既に存在している場合は、その組合員になっているのだから、誰に同意を求めればよいかが比較的明確である。
また、必ずしも全員の同意を得なければならない制度になっていないため、3分の2以上の同意が得られれば、一部、誰の同意を得なければならないか不明のものがあったとしても、それをもって、直ちに事業施行が不可能になるものではない。
しかしながら、農用地以外の場合、基本的には登記簿の名義により、権利者を確定することになると思われるが、相続登記などされていない場合も多く、その前提となる遺産分割もなされていない場合も多いと考えられる。
更に、全員の同意が要件とされているため、一人でも不明者がいれば、当該土地の編入はできない制度になっているし、編入した場合に、相続人と称する者等が突如現われ、土地改良事業への攻撃を行う可能性もある。
2 民法の規定
(1)共有物の使用管理
各共有者は、その持分(相続分)に応じて所有者と同じく共有物の全部を使用することができる。(民法第249条)
各共有者は、他の共有者の同意がなければ共有物に変更を加えることはできない。(法律的な処分も変更に含まれると解されている。)(民法第251条)
共有物の変更を除くほか、共有物の管理に関する事項は各共有者の持分(相続分)の価格に従い、その過半数をもって決する。
ただし、保存行為は各共有者がなしうる。(民法第252条 なお、この条文は任意法規と解されており、これに従わない取り決めを行うことも可能)
※ 管理に関する事項
保存行為 修繕、消滅時効の中断などのような財産の現状を維持する行為(持分登記をすることも保存行為であると解されている。)(民法第103条)
利用行為 賃貸などの収益を図る行為
改良行為 水道設備を施すなどの財産の経済的価値を増加させる行為
(2)遺産共有
相続は被相続人の死亡によって開始する。(民法第882条)
相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属し、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。(民法第898条、第899条)
3 民法と土地改良法の規定の相違等
(1)編入同意の性格
仮に、土地改良事業の施行地域に編入同意をすることが財産の処分にあたるということであれば、遺産分割をする前の共有状態にある相続人のすべての同意を要することになり、民法においても土地改良法においても同様に考えてよいということになる。
(土地改良法では更に使用収益権者の同意を要求している。)
しかしながら、土地改良事業の施行は、財産たる土地そのものの位置や面積を変更するものではなく、また、何がしかの権利の移転を伴うものではない。そのため、この施行地域への編入同意は財産の変更に対する同意とは考えられない。
一方、土地改良事業は、農用地の改良、集団化等により、農業構造改善に資することを目的とするものであり、これに対する同意は、財産の経済的価値を増加させる改良行為であると考えられる。
(なお、宅地等の非農用地であっても当該土地が利益を受ける場合や当該土地を含む地域全体の利益が増進される場合には、当該非農用地の編入も法律上許されないものではないとする判例がある。−最高裁昭和60年(行ツ)第140号昭和62年7月16日判決)
(2)共有の非農用地の編入同意は全員の同意を要するか
土地改良事業の施行地域への編入同意が改良行為であるとすれば、民法の規定では、共有者のうち、持分の過半数になるまで、同意を得ればよいことになる。一方、土地改良法では共有者すべての同意を要することになる。
一見、土地改良事業にあっては、民法の規定にかかわりなく、土地改良法の規定により、現実に、共有者全員の同意を得なければ、共有の非農用地の施行地域への編入はできないように見える。
しかしながら、民法で定められた持分の過半数によって決するという手続きは、所有権者としての意思表示を行うための、いわば、内部行為的な手続きであり、これにより決した意思に対して、すべての共有者は拘束を受けると考えられる。
また、当該意思表示を受けた契約の相手方等の共有者以外の者は、当該意思表示が共有者全員の意思であるとみなすこととなる。
(持分の過半数により決した意思を共有者全員の意思とみなすことができなければ、そもそも、民法でこのような規定を設けた意味がない。)
よって、共有の非農用地の編入同意に係る民法と土地改良法の規定は相矛盾するものではなく、民法の規定による、持分の過半数によって決した改良行為としての編入同意に対し、事業主体はこれを共有者全員の意思とみなすことができる。
ただし、実務上は、共有者間の協議の有無に係る異議等、トラブルを避けるためにも共有者全員の同意を得るよう努力することになろう。
なお、このことは、改良行為たる編入同意に関してのことであり、財産そのものの位置や区画の変更に関わる換地計画や特別換地に対する同意には適用できないと考える。
3 関連裁判例
※ 広島地裁 平成2年(行ウ)17号 平成3年(行ウ)6号 平成3年(ワ)44号 平成7年10月4日判決
土地改良区営土地改良事業において、9名の共有となっている土地の所有者のうち1名が、換地処分を受けたことに対して、当該共有地(従前地)は非農用地であり、非農用地である以上、権利者の全員の同意を得なければならないところ、原告の同意を得ずに、関係のない者1名の同意により編入したという原告の主張に対し、裁判所は、
ア 事業地域への編入同意は改良行為であり、編入当時の耕作者が他の相続人から任せられていた管理権限により行われた。そのため、この同意は共有者全員に対して効力を有する。
イ 事業地域への編入同意は改良行為であり、仮に原告が反対していても、共有者の持分の過半数があったから、この同意は共有者全員に対して効力を有する。
として、主張を退けている。