不在者の地区編入同意

土地改良法の規定
土地改良法の規定では、事業計画確定後の一時利用地指定や換地処分について、所有者が不在の場合に、公示することにより相手方に送達したとみなす制度がおかれている。
しかしながら、事業計画立ち上げにあたって同意を求めることについて、このような便法の規定は設けられておらず、土地改良法の規定のみをみると、ひたすら、本人を捜し当てなければ同意を得られず、所在がわからない者の土地は編入することが不可能ということになる。(もちろん、当該土地が農地の場合は地区全体の3分の2以上の同意があればよいので、その中に所在不明の者の土地が含まれることもありうる。)


地区編入同意の性格
土地改良事業の地区編入同意そのものは、財産たる土地そのものの位置や面積を変更するものではなく、また、何がしかの権利の移転を伴うものではない。位置の変更等はそれに続く換地処分において行われるものである。
そのため、この施行地域への編入同意は財産の変更に対する同意とは考えられず、また、土地改良事業は、農用地の改良、集団化等により、農業構造改善に資することを目的とするものだから、これに対する同意は、財産の経済的価値を増加させる民法第103条にいう改良行為であると考えられる。
※ 管理に関する事項……
保存行為 修繕、消滅時効の中断などのような財産の現状を維持する行為(持分登記をすることも保存行為であると解されている。)(民法第103条)
利用行為 賃貸などの収益を図る行為
改良行為 水道設備を施すなどの財産の経済的価値を増加させる行為


不在者財産管理人と地区編入同意 
民法第25条、第28条、第103条等により、不在者がその財産の管理人を置いている場合又は利害関係人の請求により家庭裁判所が財産の管理人を選任した場合は、その管理人は財産の保存行為、利用行為、改良行為を自らの判断で行うことができる。
上記のとおり、地区編入同意は財産の改良行為と考えられるので、不在者財産管理人は地区編入同意を不在者に代わり行うことができると解することができる。地区編入の同意を求める相手はこの不在者財産管理人となるわけである。


関連裁判例
広島地裁 平成2年(行ウ)17号 平成3年(行ウ)6号 平成3年(ワ)44号 平成7年10月4日判決
土地改良区営土地改良事業において、9名の共有となっている土地の所有者のうち1名が、換地処分を受けたことに対して、当該共有地(従前地)は非農用地であり、非農用地である以上、権利者の全員の同意を得なければならないところ、原告の同意を得ずに、関係のない者1名の同意により編入したという原告の主張に対し、裁判所は、
事業地域への編入同意は改良行為であり、編入当時の耕作者が他の相続人から任せられていた管理権限により行われた。そのため、この同意は共有者全員に対して効力を有する。
事業地域への編入同意は改良行為であり、仮に原告が反対していても、共有者の持分の過半数があったから、この同意は共有者全員に対して効力を有する。
として、主張を退けている。