公職選挙法第200条と地方議員選挙

公職選挙法第199条では、地方公共団体と請負その他特別の利益を伴う契約(文言から「請負」はここでの「特別の利益を伴う契約」には含まれないと解される。)の当事者は、当該地方公共団体の長又は議員選挙に関し寄附をしてはならず、また、融資を受けている法人が地方公共団体からその利子補給金の交付決定を受けた場合には、交付の日から起算して1年を経過した日まで、当該地方公共団体の長又は議員選挙に関し寄附をしてはならないと定められている。
ここでいう「選挙に関する寄附」とは、選挙運動に関する寄附よりも広い概念であり、公職選挙法で列挙されている選挙運動に係るものに限らず、支援者への事前の打診等、いわゆる立候補準備行為に係る寄附も含むものと解される。公職選挙法の条文においても選挙運動に関する寄附とは区別して書かれており、選挙運動に関する寄附以外の寄附の報告義務は法律上規定がない。といっても、政治資金規正法第21条の2で選挙運動に関するもの以外の公職の候補者個人への政治活動に関する寄附は禁止されているために、報告すべき寄附は想定されていないからであるが。
一方、公職選挙法第200条では、選挙に関し、何人も第199条に規定する者に対して寄附を要求してはならず、寄附を受けてはならないと定められている。ここでは、寄附を行う者が第199条に規定する者であることを知っていたか知らなかったかは問題とされない。
また、公職選挙法第249条でこれに違反して寄附を受けた者は、3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金に処せられ、かつ、第251条の規定により当選無効となるし、第252条の規定により、5年間、選挙権被選挙権を失う。
となると、選挙に立候補しようとする者にとっては、支援者から寄附を受ける場合に、その者が第199条に規定する者であるかどうかを知る必要が出てくる。
とはいっても、現実にそんなことはできんじゃないかという意見があると考えられ、この規定は現実にできないことを押し付ける、無理難題を押し付ける規定ではないかとの考えも出てくる。
しかしながら、これは、選挙に関する寄附に限った規定であって、これを含む政治活動に関する寄附一般を定めた政治資金規正法ではここまで厳しい規定にはなっていない。
政治資金規正法第22条の3では、地方公共団体から補助金、負担金、利子補給金その他の給付金を受けた法人は当該給付金決定通知を受けた日後1年間、当該地方公共団体の議員又は長の関係政治団体に対する寄附はできず、地方公共団体から資本金、基本金その他これらに準ずるものの全部又は一部の出資又は拠出を受けている法人は当該地方公共団体の議員又は長の関係政治団体に対する寄附は禁じられている。
そして、寄附を行う者が上記のような者であることを知りながら、それを受けることは禁じられている。
逆に言えば、政治団体が、寄附を行う者の事情を知らなければそのような寄附を受けること自体は容認されているのである。
また、請負契約を結んでいることによる寄附の制限は政治資金規正法では定めがない。
前述のように選挙運動に関する寄附以外の政治活動に関する寄附は、そもそも、個人は受けることはできず、一方では、政治団体に対する寄附の出し手については、それが請負契約を結んでいるかどうかは顧慮する必要がなく、利子補給金等を受けている者かどうかについても、少なくとも承知する義務はないのだから、つまるところ、公職選挙法第200条の規定を顧慮しなければならないのは、「政治団体以外の者が行う選挙運動」に関する寄附、すなわち、公職の候補者個人への直接の選挙運動に関する寄附のみということとなる。(上述のように、政治資金規正法第21条の2で選挙運動に関するもの以外の公職の候補者個人への政治活動に関する寄附は禁止されている。また、政治団体に対する寄附であっても、選挙に関する寄附とみなされれば話は別になるが、政治資金の拠出に関する国民の自発的意思を抑制しないとする政治資金規正法の理念からいっても相当困難ではないか。)
政治資金規正法の規定は、公職の候補者の選挙運動を含む政治活動の費用は、候補者を支援する政治団体の寄附によりまかなわれるものと考え、その政治団体の収支を公開することにより、政治資金全体の明朗会計化を図る趣旨であること、そして、選挙運動が非常に限られた期間に、限られた内容で行うよう定められており、その費用も上限が定められているうえに、公費の充当もあることから、公職の候補者個人が受ける選挙運動に関する寄附を受ける場合というのは、その出し手の人数、金額は限られたものであると考えられる。となると、公職選挙法第200条の規定は、法律がねらう政治資金のあるべき形を前提とすれば、その字面ほど公職の候補者に対し無理難題を押し付ける規定ではないものと考えられる。