予算案提出に関する長と議会との関係についての地方自治法の規定

地方公共団体の予算の提案権は議会にはなく、長にのみある。
地方自治法第211条第1項では、普通地方公共団体の長は、毎会計年度予算を調製し、年度開始前に、議会の議決を経なければならないとある。また、地方自治法第112条第1項では、議会の議員は議会の議決すべき事件につき議案を提出できるものの、予算についてはその対象とされていない。
長が提案した予算に対し、議会は原案どおり可決又は原案を否決するほか、修正することも可能である。
ただし、増額の修正については制限が付されている。
地方自治法第97条第2項では、議会は、予算について、増額して議決することはできるけれども、長の予算の提出の権限を侵すことはできないとされている。ここでの長の権限を侵すものという判断は、旧自治省による1977年10月3日の通知では、増額修正をしようとする内容規模、予算全体との関連、行財政運営における影響度等を総合的に勘案して個々の事例に即して判断するものと解されている。
かつては、事業を加えることはこ長の権限を侵すものと考えられていたが、国会での議論を受けて出された上記通知以後は必ずしもそうは解されていない。学陽書房発行「逐条地方自治法」では、新たな款項を加えること、継続費、繰越明許費、債務負担行為に新たな事業を加えることは長の権限を侵すものとの記載がある。けだし、提案された予算の趣旨を損なうものということであろう。なお、議会に提案される予算、すなわち議決の対象とされるのは予算の科目中、款項までであり、目節の内訳については予算に関する説明書の一である歳入歳出予算事項別明細書に記載される。(地方自治法第211条第2項 地方自治法施行令第144条第2項)
提案した予算が修正された場合、長は拒否権をもつ。
まず、上記の増額修正の制限を超えての修正など議会の議決が法令や会議規則に違反していると認めるときは、長は再議に付さなければならない。なお、再議に付す予算は、議会によって修正された後の予算である。以下、再議の対象については同様の取り扱いである。 
再議に付され、議決された予算がまたしても法令や会議規則に違反していると認めるときは、総務大臣又は知事に審査を申し立てることが出来る。(地方自治法第176条第4項第5項)
また、予算に関する議決に長が異議があるときは、その議決の送付を受けてから10日以内に長は再議に付すことができる。
再議に付された場合に、議会が前回と同じ議決を出席議員の3分の2以上の同意により行った場合には、その議決が確定する。
仮に3分の2以上の同意がなく、かつ、否決にもならなかった場合は廃案になると解されている。(地方自治法第176条第1項〜第3項)
なお、予算の否決の議決については、当該議決に執行上の効果がないから再議に付すことはありえないというのが行政実例となっている。
更に、収入又は支出に関し事実上執行できないと認めるとき、法令により負担する経費等地方公共団体の義務的経費や非常の災害に応急若しくは復旧の施設のための経費又は感染症予防のための経費の削除又は減額の議決があったときは、長は再議に付さなければならない。
地方自治法第177条第1項第2項)
この場合、職員の給与にかかる予算も現員減給の範囲内で再議に付すことができると解されている。
そして、災害復旧や感染症予防のための経費が再議に付してもなお、減額又は削除されたときは、長はその議決を不信任の議決とみなすことができ、議会の解散が可能となる。(地方自治法第177条第4項 地方自治法第178条第1項)
議会が予算を否決したり、再議に付しても原案どおりの議決がなされない場合、長はまずもってその判断に従うことになる。上記の議会解散や審査申立てはそのことによりただちに議決の効力を停止させるものではない。
しかしながら、地方公共団体には新年度に支出をしなければならない義務的経費があり、議会の議決がないことをもって義務が免除されるものでもない。
そこで、地方自治法では原案執行、専決処分、暫定予算の制度が設けられている。
原案執行は、義務的経費につき議会に再議に付してもなお議会が当該経費を削除又は減額した場合に、長は当該経費及びこれに伴う収入を予算に計上し執行することができるというものである。(地方自治法第176条第3項)
専決処分は、議会が成立しないとき、議会を招集する暇がないとき、議会において予算を議決しないときに、長が予算を計上するというものである。(地方自治法第179条第1項)
この場合、長は、専決処分後、次の議会でこれを報告し承認を得なければならない。(地方自治法第179条第3項)
もっとも、承認がなされなくとも専決処分の効力そのものには影響ない。
暫定予算は、予算が議決されないか否決された場合に、義務的経費のみについて必要とする期間の予算を調製し議会に提案するものである。