代執行

 行政代執行法第2条
 法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。

 地方自治法第14条第1項
 普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。

 地方自治法第14条第2項
 普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。

 地方自治法第14条第2項によると、地方公共団体が義務を課すには条例によらなければならない。
 一方、行政代執行法第2条では、個別の法律の委任に基づかない、地方公共団体が自主的に制定した条例において、義務を課したとしても、それは代執行という手段でその履行を確保することはできないように読める。
 「命令及び規則並びに条例を含む」ではなく、「法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む」となっている以上、字面としては、「法律の委任に基く」は「条例」にもかかっているからである。
 しかしながら、行政実例では、「条例」には、法律の個別的な委任に基く条例のみでなく、地方自治法第14条の規定に基いて制定される条例をも含むと解されており(昭和26年10月23日福岡県議会事務局長宛自治庁行政課長回答 ただし、当時の規定と現在の規定は異なっている)、実際に多くの条例に代執行の規定が設けられている。
 行政実例では、行政代執行法第2条の「法律の委任」の「法律」に地方自治法第14条のような概括的な授権規定をも含むとしているのだが、これは無理な理屈ではないだろうか?悪く言えば屁理屈の類ではないかとも思える。並立的に書かれている命令や規則がすべて個別の法律の委任に基くことと整合性が取れない。
 とは言うものの、地方公共団体自治権能の発露として制定された条例により課された義務について代執行が認められず、全国一律の法律に根拠があるもののみ代執行が許されるという解釈は、義務の不履行の放置が著しく公益に反するから、行政庁が義務者に代ってなすべき行為をなし、行政目的を実現するという代執行制度の目的にそぐわない。また、現実の必要から、法律の個別の委任のない多くの条例で代執行の規定が設けられていることも無視できない。
そのため、条文の「法律の委任に基く」は、「条例」にかからないと解すべきと考える。そして、これが行政代執行法の趣旨、目的にもかなうものであると思われる。
なお、行政代執行法第2条のこの部分の解釈については、まだ、最高裁判所判例はないようである。