情報社会

丸山真男著「「文明論の概略」を読む」中(岩波書店 1986年)
「智恵というものについて、私は一応こういうふうにレヴェルを区別してみます。いわば知の建築上の構造です。
information(情報)―knowledge(知識)―intelligence(知性)― wisdom(叡智)
(中略)
福沢自身も(中略)学問というのは、たんなる物知りでなくて、「物事の互ひに関り合ふ縁を知る」ことだ、と言っております。個々の学問は大体このノリッジに位置します。一番上の情報というのは無限に細分化されうるもので、簡単にいうと真偽がイエス・ノーで答えられる性質のものです。クイズの質問になりうるのは、この情報だけです。たとえば第二次大戦はいつ勃発しましたか、というのは情報のレヴェルの問題ですが、第二次大戦の原因は何かとなると、知識のレヴェルになり、したがってクイズの問題にはなりえません。無数の情報(史料)を組み合わせねばならないので、イエス・ノーで答えが出せないのです。(中略)現代の「情報社会」の問題性は、このように底辺に叡智があり、頂点に情報が来る三角形の構造が、逆三角形になって、情報最大・叡智最小の形をなしていることにあるのではないでしょうか。叡智と知性とが知識にとって代られ、知識がますます情報にとって代られようとしています。「秀才バカ」というのは情報最大、叡智最小の人のことで、クイズにはもっとも向いていますが、複雑な事態に対する判断力は最低です。」