● 土地改良事業においては、土地区画整理事業と異なり、工事費用の財源充当のための保留地の制度がない。
しかしながら、土地改良事業に併せ他の公共事業が行われることも多く、これに係る土地買収費用を工事費用の財源として事業主体や地元がプールしたいとする欲求があるのも無理からぬところである。
そのためには下記の方法が考えられる。
なお、下記のうち、特別減歩による創設換地を公共工事を予定する者(以下「起業者」という)が直接取得することも考えられ、現実にそうされていることもあるが、この場合、起業者は換地処分前に清算金を支払えないことがある(地方自治法第232条の4第2項)や、当該清算金の受け手は判然としなくなるという面があること、及び手続きは下記の場合と同様であることから省略する。
1 異種目換地による方法
(1)趣旨
地区内に農地を持つ者のうち、当該農地を、圃場整備地区内において公共工事を予定する者に売り渡すことを希望するものと起業者が換地処分前に売買契約を結び、当該起業者が換地処分前に買収土地の使用収益権に基づき工事を行い、かつ、換地処分により、工事を行った場所に買収農地の換地を受ける方法。
(2)事務の流れ
・土地改良事業計画において、起業者が工事を行う区域を非農用地区域として指定
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・圃場整備地区内の希望者の従前地を非農用地区域(起業者が工事を行う区域)に換地処分する旨を通知(異種目換地の事前指定)及び公告(希望者の同意により行われ、指定後は同意を撤回できないものと解されている)
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・圃場整備地区内の希望者の従前地の使用収益停止及び工事を行う区域(非農用地区域)への一時利用地指定
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・工事を行う区域(非農用地区域)に従前地を有する者(底地権者)の当該従前地に対する使用収益権の停止
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・面工事前に起業者が圃場整備地区内の希望者から従前地(工事を行う区域とは限らない。)を買収し、分筆及び起業者への所有権移転登記並びに代金支払い(面工事前でなければ分筆登記できない)
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・上記一時利用地指定の承継により、工事を行う区域に起業者が使用収益権を取得
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・工事を行う区域(非農用地区域)に従前地を有する者(底地権者)の工事の施行承諾
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・起業者による工事
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・起業者所有の従前地を工事を行った区域に換地処分
(一般に清算金は生じない)
(3)性格
ア 起業者の買収の相手方は従前地の所有者である。
イ 起業者は所有権移転登記後代金支払いが可能。
ウ 起業者が、換地処分前の段階で、換地処分の後、最終的に工事を行った土地の所有権を取得できるとみなせる根拠は、地区権利者の同意を得た土地改良事業計画において、当該工事を行う非農用地区域として設定されていることと、これに基づき異種目換地の事前指定がなされていることである。
エ 買収代金は従前地の所有者の収入となり、所得税の特別控除の対象となる。
オ 買収代金は土地改良区の収入とはならない。そうするためには、従前地の所有者からの寄附が必要。寄附者には贈与税が課せられるため、土地改良区の会計処理が不明朗になる恐れなしとしない。
カ 原則として、起業者が必要とする面積と同じ面積の従前地買収を必要とし、それに見合った相手があるかは不確定。
キ 地区権利者全員に便益があるという趣旨で、地区権利者全員の従前地を必要程度買収させることも可能であるが、この場合、契約作成や登記が煩雑となる。面工事の開始前に買収する必要がある。
ク キの事態を防ぐため、土地改良区の役員などにまとめて異種目換地の同意をさせ、これと起業者が売買契約を結ぶ、いわゆる「代表者方式」という便法がある。
ケ クの場合、「代表者」は契約の名義を貸すだけで、売買代金は、実質的に土地改良区にはいり、「代表者」は、売り渡した土地も含めた従前地に見合った換地を受ける。つまり、地区の権利者全員が共同減歩的に「代表者」の換地を補填することなる。
コ ケの場合、地区の権利者に実質的に減歩を生じているにもかかわらず、その同意をとることがなく、不透明な「代表者」から土地改良区への金銭の流れや、換地計画上の清算金と実際の清算金との齟齬、「代表者」の代替わりがあったときの意思の継続などの後日のトラブルの恐れなしとしない。
2 特別減歩(不換地)による創設換地の方法
(1)趣旨
土地改良事業の事業主体が、地区内に土地を持つ者の申出又は同意により、当該土地の一部(特別減歩)又は全部(不換地)を、それに見合う換地を定めない土地に指定し、その面積の範囲内で土地改良区に土地を取得させる(創設換地)旨の換地計画を作成する。
一方、事業主体は自らの管理権に基づき、換地処分前に起業者の工事を承諾し、起業者は、換地処分前に創設換地取得予定者である土地改良区との土地の売買契約を結ぶ。
(2)事務の流れ
・土地改良事業計画において、起業者が工事を行う区域を非農用地区域として指定
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・圃場整備地区内の希望者の従前地を特別減歩又は不換地にする旨を通知(特別減歩又は不換地の事前指定)及び公告
(希望者の同意により行われ、指定後は同意を撤回できないものと解されている。)
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・創設非農用地換地予定地の引渡しに関する覚書
(事業主体、土地改良区、起業者間で非農用地区域(起業者が工事を行う区域)における工事施行、換地処分等の取り決め)
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・創設換地の売買に関する覚書
(事業主体、土地改良区、起業者間で創設換地予定地の売買の確認)
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・起業者と土地改良区との売買契約
契約内容に応じ、起業者が土地改良区に代金支払い
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・創設非農用地換地予定地を使用収益することに関する覚書
(事業主体、土地改良区、起業者間で換地処分前に起業者が工事を行うことの取り決め)
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・非農用地区域(起業者が工事を行う区域)に従前地を有する者(底地権者)の当該従前地に対する使用収益権の停止
(これにより、当該区域の管理権を事業主体が取得)
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・起業者の工事に対する底地所有者の施行同意書
(上記使用収益の停止の同意と同時徴収が好都合)
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・非農用地造成工事の施行についての起業者から事業主体への承諾申請
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・起業者による工事
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・起業者が工事を行った区域を土地改良区が創設換地で取得(清算金額は地元の総意により算定)
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・土地改良区から起業者に所有権移転登記
(3)性格
ア 起業者の買収の相手方は土地改良区(創設換地の取得者)である。
イ 起業者が換地処分前に代金支払いを行うことになると、いわゆる登記前払いになる。
ウ 起業者が、換地処分前の段階で、換地処分の後、最終的に工事を行った土地の所有権を取得できるとみなせる根拠は、地区権利者の同意を得た土地改良事業計画において、当該工事を行う非農用地区域として設定されていることと、これに基づき、特別減歩又は不換地の事前指定がなされていることである。(異種目換地による場合と変わらない)
エ 買収代金は土地改良区の直接収入となり、土地改良区は公共法人であるため、法人税の納付義務はない。不動産取得税には免除規定がある。当該収入を工事負担金等の財源に充てることは可能で、これにより、地区権利者及び土地改良区の負担を軽減することができる。
オ 不換地及び特別減歩の面積は、起業者が必要とする面積を上回ればよい。同面積になる必要はない。
カ 地区権利者に便益があるという趣旨で、地区権利者全員の従前地を必要程度減歩させることも可能。この場合、事業計画立ち上げの時点でその旨の同意を徴することにより処理可能。ただし、登記はできず、関係者への通知及び県の公告で換地処分までの間、当該減歩が保証されることになる。
キ 起業者が土地改良区に支払う買収代金の支払方法は契約内容により適宜決められる。(工事進行等を勘案して)
ク 土地改良区の最終的な実収入は、起業者から受けた買収代金と創設換地取得に伴う支払清算金の差額となる。支払清算金は通常それに見合う農地価格となるが、地元の総意により、変更は可能。
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