不動産登記法第152条に係る裁判例

(出典は、第一法規判例体系 不動産登記法3」)

 ● 不動産登記法第152条

登記官ノ処分ヲ不当トスル者ハ監督法務局又ハ地方法務局ノ長ニ審査請求ヲナスコトヲ得

(昭和35年法律第14号により150条から条数変更)

一 登記を行ったことは処分か?(裁判例ABCD)

  登記官が不動産登記法に基き職権で行った行為は登記官が行う行政処分とされる。

  裁判例では、登記官が裁判所の嘱託により仮登記を抹消することであっても登記官が行う処分と解されている。

  また、旧土地台帳附属地図の訂正不訂正は処分に当らないとする裁判例があるが、この理由は不動産登記法に根拠がなく、かつ、権利者の法律上の地位に直接影響がないとするものであって、少なくとも不動産登記法に根拠のある行為については、その処分性があるものと考えられている。

  なお、宅地を畑と更正する地目更正登記については処分にあたらないとする裁判例がある。

後述のように地目更正登記の却下の場合には、処分性の有無に係る見解が別れており、処分性を認める裁判例もある。また、これらの判断が分かれる点は、それを行ったことにより当事者の法律的利益が失われるか否か、すなわち、抗告訴訟や審査請求を起こす利益があるかどうかなのであり、登記官が行う処分そのものであるかどうかではない。

  このことからみて、地目更正登記を行ったことについても、処分であることは問題なく、不動産登記法第152条の規定により審査請求が行えるかどうかについて意見が分かれるのではないかと思われる。

  

二 登記申請を却下する旨の決定は処分か?(裁判例EFGH)

  地目変更登記申請を却下した件につき、その処分性の有無について見解の異なる裁判例がある。

  まず、抗告訴訟の対象となる行政処分に当らないとするものの理由は下記のとおりである。

  ・表示登記は登記官の職権主義をとっており、不動産登記法に規定される申請義務も、登記官の職権発動を容易ならしめるものにとどまり、申請者に登記申請権を賦与したものではない。

  ・地目の表示はそれ自体直接国民の権利義務を形成しあるいはその範囲を明確にする性質を有さない。そのため、地目変更登記申請が却下された場合にこれを争う法律上の利益がない。

   登記簿の地目が農地である場合に、農地法による権利移転制限等が加えられるとしても、それは地目の表示自体の法的効果ではなく事実上の効果に過ぎない。

  一方、抗告処分の対象となる行政処分に当たるとするものの理由は下記のとおりである。

  ・地目変更登記については当事者に手続上の申請権が認められており、申請の却下はこの手続上の申請権を侵害するため抗告訴訟の対象となる。

  ・地目変更登記は、既に生じた不動産の物理的変動を単に報告するという性質を有するもので、それによって当事者の実体法上の権利関係に変動を及ぼすものではない。しかし、不動産登記法は表示登記に申請義務を課している等のことにより、当事者に対し、手続上の登記申請権を認めている。

  両者とも、地目変更登記について、このことにより、当事者の実体法上の権利関係の変動は生じないとしながら、不動産登記法により手続上の権利を当事者が有するかどうかで判断が分かれている。(実体法上の権利関係の変動が生じないとうことは、民事上の賠償責任は生じないこととなる。)

  これらの判断が分かれる点は、それを行ったことにより当事者の法律的利益が失われるか否か、すなわち、抗告訴訟を起こす利益があるかどうかなのであり、登記官が行う処分そのものであるかどうかではない。

  このことからみて、地目更正登記申請の却下を行ったことについても、処分であることは問題なく、不動産登記法第152条の規定により審査請求が行えるかどうかについて意見が分かれるのではないかと思われる。

  また、裁判例の論点から考えて、他の登記の却下についても同様に考えてよい。

三 不動産登記法第49条各号の規定により却下すべき登記申請を受理し登記した場合に取消を求めることができるか?

(裁判例IJKLMNOPQRS)

  登記官が登記申請に対し、不動産登記法第49条の規定により却下する旨の決定を行ったとしても、それが法の規定による処分である以上、不動産登記法第152条の規定による審査請求の対象とされうる(上記のように審査請求を行えないと判断される場合もある。)が、不動産登記法第49条の規定により却下すべきところをこれに違背して登記した場合には、その違背事由により、審査請求の対象となるかどうかが区分けされている。

  不動産登記法第49条では下記の場合に限り理由を付した登記官の決定をもって登記申請を却下できるとしている。

 第1号 事件が登記所の管轄に属さない。

     不動産の所在地を管轄する法務局等が登記所となる。(不動産登記法第8条)

 第2号 事件が登記すべきものでない。

     橋梁の表示登記や留置権の登記、実体法上当然に無効な内容をもつ登記など登記簿上で形式的に明白に登記すべきでないとわかるもの。

 第3号 表示登記以外で当事者が出頭しない。

 第4号 申請書が方式に適合しない。

 第5号 申請書に掲げた不動産や権利が登記簿と抵触する。

 第6号 相続人からの申請によるもの以外で、申請書の登記義務者の表示が登記簿と合わない。

 第7号 申請書に掲げた事項が登記原因を証する書面と合わない。

 第8号 申請書に必要な書面又は図面の添付がない。

 第9号 登録免許税を納付しない。

第10号 表示登記の申請書に掲げた事項が登記官の調査結果と合わない。

第11号 保証書を提出した登記申請を受け、登記官が登記義務者に通知した文書に対し、不動産登記法第44条の2第2項の規定による登記義務者が3週間以内に登記申請に間違いのない旨の申出を登記官に対して行わない。 

  過去の裁判例では、第3号以下に該当する登記申請の場合、いったん登記してしまった以上は、審査請求及び抗告訴訟の方法による救済は認められないことで一貫している。また、たとえ偽造の登記申請により登記した場合でも審査請求及び抗告訴訟の方法による救済は認められないとされている。

  その理由としては、

 ア 登記制度の主たる意義は私法上の権利関係の公証により、私法上の権利に対抗力を取得させることである。

 第1号又は第2号該当の場合は事柄の性質上、具体的事情の効力にかかわりなく当然に無効であるものの、取引の安全の確保上、第3号以下に該当の場合は行った登記の効力は当然に無効となるものではない。

   もし審査請求や抗告訴訟の手続きにより登記が取り消されるとすれば、利害関係人が関与し得ない法手続きにより一方的に登記が抹消されるという不当な扱いをすることとなる。

   第3号以下に該当の場合は、当事者間の民事訴訟において、登記内容の実体法上の効力を争い、その結果として、登記が抹消されることとなる。

 イ 不動産登記法上、登記官が職権で登記を抹消できるのは第1号又は第2号該当の場合のみ(不動産登記法第149条)であり、第3号以下に該当の場合は、既に登記が完了している以上、その抹消はできない。

   不動産登記法第149条の趣旨は、登記手続の形式的違法性の故にその登記を抹消することは、この登記を信頼して取引をした第三者の利益を害するおそれがあるからである。

 とされている。

  しかしながら、イの理由については、不動産登記法第152条により処分(登記)の取消しを求めることができ、それを受け不動産登記法第154条、第155条で相当の処分ができると定められているところに、審査請求を前提としない不動産登記法第149条の規定を持ち出すのはどうかと思われる。

  つまるところ、既に登記を行っていることによる第三者の取引の安全の確保と実体法上の効力がある以上、形式的違法性の故にその公証を取り消すのはおかしいというのが審査請求及び抗告訴訟の方法による救済を認めない理由であると考えられる。

  なお、第2号の「事件が登記すべきものでない」というのは極めて広く解釈できそうだが、判例で、申請がその趣旨自体において既に法律上許容すべからざること明らかな場合をいうと解されており、登記申請人が実体法上の権利者ではないというような場合は含まれないとされている。

四 違法な登記の抹消を求める行政訴訟を起こせるか?(裁判例TUVW)

  これについては、行政訴訟の一般的な考え方にならい、裁判所は行政庁の処分の適否を判断する権限を有するにすぎず、一定の作為不作為を命ずることはできないとして否定している。

A 登記官が裁判所の嘱託につき仮登記を抹消するのは登記官の処分にほかならない。(大審院大正5年2月23日決定 大正4年(ク)216号)

B 登記官が裁判所の嘱託につき仮登記を抹消するのは登記官の処分にほかならない。(大審院大正15年10月19日決定 大正15年(ク)722号)

C 旧土地台帳附属地図は不動産登記法令に何らの根拠がない上、登記官の右地図の訂正又は不訂正の行為は権利者の法律上の地位に直接影響を及ぼすことはないから、右登記官の行為は、本条にいう審査請求の対象となる「登記官ノ処分」には当たらない。

東京地裁昭和55年6月26日判決 昭和55年(行ウ)16号)

D 宅地を畑と更正する地目更正登記は、行政処分に当たらない。(名古屋高裁昭和57年7月13日判決 昭和57年(行コ)4号)

E 地目変更登記申請を却下する旨の登記官の決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない。

(福岡高裁昭和55年10月20日判決 昭和54年(行コ)15号)

 ※ 不動産登記法は、一般に不動産の表示に関する登記について登記官が職権をもってこれをすることができるものとし(不動産登記法第25条の2)、そのために登記官に職権調査権を賦与している(不動産登記法第50条第1項)ところ、右職権主義は、不動産の表示に関する登記の範疇に含まれる土地の地目または地積の変更登記手続についても当然に適用されるが、登記簿上すべての土地の現況を職権調査と職権登記によって捉えることは実際上不可能に近いことから、同法81条は、登記官の職権の発動を容易ならしめるために、一定の者に地目または地積の変更登記の申請義務を賦課したにとどまるものであって、これによって右の者に同登記の申請権を賦与したものではなく、また、同法49条が、表示に関する登記の申請を却下する場合、登記官に理由を付した決定をもってすることを要求している趣旨は、登記官の判断の慎重を担保してその恣意を抑制するとともに、却下の理由を申請人に知らせて、登記官の処分に対する審査請求(不動産登記法第152条)について便宜を与えようとするものにすぎない。 

F 地目変更登記申請の却下決定が行政庁の処分に当るとされた事例(東京高裁昭和63年12月12日判決 昭和63年(行コ)18号)

 ※ 不動産登記法上、登記簿の地目の表示に重大な利害を有する当事者に地目変更登記についての手続上の申請権が認められており、登記官の地目変更登記の申請を却下する旨の決定は、右の手続上の申請権を侵害するものとして抗告訴訟の対象である行政庁の処分に当たると解するのが相当であると判断する。

G 地目変更登記申請の却下決定が行政庁の処分に当らないとされた事例(千葉地裁平成元年4月12日判決 昭和63年(行ウ)11号)

※ 登記簿上の地目の表示は、それ自体直接国民の権利義務を形成しあるいはその範囲を明確にする性質を有せず、地目変更申請が却下された場合に申請者がこれを争う法律上の利益は存しないので、本件登記申請の却下には処分性がない。

なお、原告は、登記簿上の地目の表示が農地となっている場合に、農地法の農地に課せられる権利移転制限等が加えられることがあるとしてこれを法律上の不利益というものであるが、農地法上の農地とは、耕作の目的に供される土地をいい(農地法第2条第1項)、右農地に該当するかどうかは、登記簿上の地目の表示とは関係なく、農地法の趣旨にしたがい現況主義により決せられるべきものであり、仮に地目が農地であるために農地であると取り扱われたとしても、それは地目の表示自体の法的効果ではなく、事実上の効果に過ぎないのであって、所論に理由はない。

また、原告は不動産登記法上、一定の場合に不動産所有者らに表示の登記に関する申請義務を課し、それを怠った場合の罰則が規定されていることをもって、申請権の根拠とするが、右法は、不動産の表示の登記は登記官が職権をもって調査してなすべき登記であるとしているのであり(不動産登記法第25条の2 第50条第1項 最判昭和45年7月16日)、所有者らに申請義務を課しているのは、登記官の職権行使を円滑で妥当なものとするためであると考えられ、前記表示の登記の性格からして、この申請義務の存在をもって申請権の根拠とみるべきではない

H 地目変更登記申請を却下する旨の登記官の決定は抗告訴訟の対象となる処分に当る。

宇都宮地裁昭和63年3月31日判決 昭和58年(行ウ)1号)

 ※ 地目変更登記は、既に生じた不動産の物理的変動を単に報告するという性質を有するものであって、それによって当該不動産の法律上の性質を変更するものでもなく、実体法上の権利関係に変動を及ぼすものではないから、地目変更登記の申請を却下する決定は、申請当事者の実体法上の権利、利益を侵害するものとはいえない。

※ ところで、いわゆる表示の登記は、(中略)権利の登記とは異なり、土地台帳、家屋台帳の制度を引き継いで職権主義を採用しているが(不動産登記法第25条の2) 、それは、不動産の物理的状況をできるだけ正確に明らかにして不動産取引の安全、円滑を確保するとともに、土地台帳、家屋台帳が不動産の課税台帳としての機能を果たしてきたという沿革から税務行政等の不動産に関する諸行政の便宜を図るところにあると考えられ、その意味で、表示の申請手続に当事者の関与を全く排除して当事者の申請行為を否定する趣旨までは含まず、かえって、当事者の申請行為の存在を前提にして、更に、当事者に対し一種の公法上の義務として申請義務を課している(不動産登記法第81条第1項第3項 不動産登記法第159条の2)のである。

   そして、この当事者の申請行為については、土地台帳法、家屋台帳法の下では、当事者の「申告」は登記所の職権発動を促すに過ぎないとの理由から、これについては応答が予定されていなかったのとは異なり、現行不動産登記法では、当事者の申請の内容が登記官の調査結果と符合しない場合には登記官は理由を付した決定でその申請を却下しなければならず(不動産登記法第49条第10号)、この決定に対しては審査請求ができる(不動産登記法第152条)とされているのである。

したがって、現行の不動産登記法上は、当事者に手続上の登記申請権を認めているものと解するのが相当である。

I 登記官の登記処分が不動産登記法第49条第8号(申請書に必要なる書面又は図面を添付せざるとき)に違背したものであっても、すでに登記が完了している以上、審査請求または抗告訴訟によってその登記処分の是正または取消を求めることはできない。

(東京地裁昭和42年8月16日判決昭和41年(行ウ)39号昭和42年(行ウ)27号)

 ※ 不動産登記法49条は、登記申請の形式的要件を定め、その要件を具備しない登記申請は登記官がこれを却下すべきものとしているから、同条各号に該当する登記申請を受理してなされた登記処分が右の規定に違反することはいうまでもない。

しかしながら、登記処分に同条各号の違反があるということと、その違反がすべて当該登記処分の効力を失わせるべき違法事由になるかということは別個の事柄であって、右の違法事由になるかどうかは、同条に違反する登記処分によってなされた登記の私法上の効力と切り離して決定されるものではない。

けだし、登記実行処分に対する審査請求を理由ありとするとき、または右登記処分を抗告訴訟の判決によって取り消すときは、すでになされている登記自体が抹消され(154条以下参照)、その登記によって与えられていた私法上の権利の対抗力等をも失わせることとなるが、元来、登記制度の主たる意義は、私法上の権利関係を公証して、私法上の権利に対抗力等を取得させるということにあるから、もし49条各号違反の登記処分によってなされた登記であっても、私法上の権利の対抗要件として当然には無効にはならない場合があるとすれば、そのかぎりにおいて、当該登記処分に対する不服申立ての方法により右処分の効力を失わしめることも許されないとするのが制度の意義にてらし合理的だからである。

ところで、同条各号に違反する登記処分によってなされた登記の私法上の効力については、同条1号または2号に該当する登記は、事柄の性質上、具体的事情の効力にかかわりなく当然かつ絶対的に無効とすべきであるが、同条3号以下の場合には、違反の内容にかんがみ、取引の安全を確保する見地から、当然に無効の登記となるものではないと解される。

してみると、さきに述べたところにしたがい、同条3号以下に違反する登記官の登記処分については、すでにその登記が完了している以上、右の違反が行政行為としての登記処分の瑕疵にあたるとして、審査裁決により当該登記の抹消を命じ、あるいは抗告訴訟の判決においてその登記処分を取り消すことはできないというべきであって、このことは、すでになされている登記が同条1号または2号に該当するときにかぎり、登記官が職権でこれを抹消すべきものとしている149条以下の規定からも窺うことができる。

もしそうでないとすると、無効であることが登記上明白な右1号または2号の場合においてすら、職権による登記の抹消につき登記権利者その他の利害関係人に事前に異議を述べる機会が必らず与えられて、その利益保護がはかられている(149条ないし151条)のに、違反の内容が1、2号に比較して軽微である3号以下の場合には、右の利害関係人が当然には関与しえない審査請求または抗告訴訟の手続により一方的にその登記を抹消されることとなり、きわめて不当であるといわなければならない。

もっとも、登記申請書に登記手続上要求される第三者の承諾書等を添付しなかったというにとどまらず、当該第三者の承諾そのものが存在しないという場合には、その申請にもとづく更正登記は登記申請の意思を欠くものとして私法上無効とされ、登記の効力を争う民事訴訟の判決により抹消されることがありうるが、右承諾の有無というようなことは登記官の形式的審査権限外の事項であるから、それを確認しなかったことをもって登記処分が違法であるということはできない。

J 登記が売買等による権利の移転関係をそのまま表現しているのに、申請書に登記義務者の権利に関する登記済証の添附がなかったことを理由として、本条による異議を申し立て、その登記の抹消を求めることはできない。

  登記完了後、不動産登記法第60条第2項の規定により登記済証が還付されないことを理由として、本条による異議を申し立て、その登記の抹消を求めることはできない。(名古屋地裁昭和31年12月7日判決 昭和29年(行)30号)

 

K 不動産登記法第49条第6号に違反してされた登記も、登記官がいったん登記申請を受理してその登記を完了した以上、その抹消を求めるために不動産登記法第150条(現行不動産登記法第152条)の異議の方法によることができない。

釧路地裁昭和31年12月12日判決 昭和30年(行)5号)

L 偽造の申請書に基づいて登記がされた場合には、異議の申立によってその登記の抹消を求めることができない。

東京高裁昭和32年11月15日判決 昭和32年(ネ)1096号)

 ※ 不動産登記法第150条以下の規定は、登記官吏の処分が不当な場合の救済を定めたものではあるけれども、法務局又は地方法務局の長に、異議についての決定において、本来登記法上登記官吏に許されない処分を命ずる権限を与えたものとは解せられない。

そうして、登記申請書が偽造であることは不動産登記法第49条第1号又は第2号に該当しないから、仮に控訴人主張のように本件各登記申請が第三者の偽造した申請書に基いてなされたものとしても、すでに右登記が完了している以上、登記官吏において不動産登記法第149条ノ2以下の規定により職権でこれを抹消することはできない。

従って異議を決定する機関である被控訴人において控訴人からの右登記を抹消すべき旨の異議申立により、登記官吏にその抹消を命ずる余地は全く存しないのであって、その抹消是正を求める控訴人の異議申立はこの点から考えても理由がない(後略)

M 不動産登記法第49条3号以下に該当する事由の存することを看過してされた登記に対しては、本条による異議の申立によってその抹消を求めることはできない。(神戸地裁昭和33年12月22日判決 昭和33年(行)21号)

 ※ 不動産登記法第49条各号に該当するかしある登記申請は登記官吏においてこれを受理してはならず、却下すべきものであるが、登記官吏の過誤により一旦登記を完了した以上、第150条以下の異議申立によって当該登記の抹消を求め得るのは、第149条の2及び5の規定により職権により登記の抹消を許した第49条第1、第2号該当の事由の存する場合に限定されるのであって、同条第3号以下に該当するときには異議の申立によって職権による登記の抹消が許されないと解するのが相当である。

しかしてその理由とするところは次のとおりである。

すなわち、第49条第1、第2号に該当する場合と同条第3号以下の場合とでは、その過誤の程度に本質的な差異を有するのであって、前者にあっては、その程度が他の場合とは比較にならぬ程重大であり、その違法は当該登記自体から明白であるうえ、該登記を無効として登記官吏にこれが抹消を許すとしても、そのことが登記上の利害関係人に不測の損害を与えるものとは通常考えられない。

   それ故に不動産登記法は第149条の2、5の規定によって第49条第1、第2号該当の場合には当該登記を無効のものとして、登記官吏において職権をもってその登記を抹消すべきものとし、登記官吏が職権の発効をしないときには第150条により異議の申立をなし得ることとしているのである。

しかしながら第49条第3号以下の場合は一旦登記が完了した後にあっては、登記簿上の記載だけでは、その過誤が明らかでなく、またその過誤の程度は前2号に比し軽微であること前叙のとおりであり、しかも登記手続においては相当厳格な形式主義が支配するとはいえ、もともと手続的な方式はそれ自体が目的ではなく、それは実体的に無効な登記の生ずることを予防するための一つの形式的な手段に過ぎないのであるから、申請に手続的なかしがあっても事実上登記がなされて終わった後は、当該登記の有効、無効は実体上の権利関係の公示という登記制度本来の目的から、登記が実体的有効要件を具備するか否かにより、これを決すべきであって、手続的かしそれ自体を理由に無効と解すべきでないこと、及び第49条第3号以下の場合においては、第149条の2及び5の規定の如く、直接、職種による登記の抹消手続を定めた規定がないこと、更に登記として当然無効のかしがある第49条第1、第2号の場合においてすら登記上の関係者に対し第149条の2所定の機会を与えているにかかわらず、第150条以下の異議手続においては登記上の関係者は単に事後的通知を受けるに過ぎないとしていることを併せ考えると、第49条第3号以下の場合を登記の有効条件としているものとは考えられず、かかるかしの存する場合にあっても、一旦登記が完了した以上、該登記は有効であって、もはや第150条以下の異議申立手続によってはその抹消を許さないものといわねばならない。

N 不動産登記法第49条第3号以下に該当する事由の存することを看過してされた登記に対しては、本条による異議の申立によってその抹消を求めることはできない。(富山地裁昭和34年2月13日判決 昭和33年(行)2号)

 ※ 形式的要件を欠く登記申請は登記官吏に於て却下すべきであるということと、かかる登記の申請を登記官吏が誤って違法に受理して登記を完了した場合、その登記は形式的要件を欠く登記手続の違法なかしの故に登記官吏に於て抹消すべきものか否かという問題とは別個に考察されるべきである。

即ち仮に形式的要件を具備しない登記の申請があって、登記官吏が誤ってこれを受理して登記を完了したすべての場合、右登記手続の形式的違法性の故にその登記は抹消すべきであると解することは、かえってかかる登記を信頼して取引をなした第三者の利益を害することになり、不動産取引の安全を著しく害することになるといわなければならない。

O 登記がいったんされた以上は、その登記が不動産登記法第49条第1号もしくは第2号の要件を欠き、またはなんら形式上申請がないのにされたものであるため、法律上当然に無効である場合のほかは、不動産登記法第150条(現行不動産登記法第152条)以下に規定する異議の申立をすることができない。(東京高裁昭和34年4月30日判決 昭和33年(ネ)740号)

P 登記申請が不動産登記法第49条第3号以下に該当する場合には、いったん登記官がそれを受理して登記を完了した以上は、その登記は当然には無効ではなく、不動産登記法第150条(現行不動産登記法第152条)以下に規定する登記官の処分に対する異議をもってその登記の抹消を求めることは許されない。(登記申請が不動産登記法第49条第8号に当る事案)(東京地裁昭和36年2月15日判決 昭和35年(行)73号)

Q 不動産登記法第150条(現行不動産登記法第152条)に規定する異議は、登記が不動産登記法第49条第1号および第2号に該当する場合にのみ申し立てることができ、不動産登記法第49条第3号以下に該当する場合には申し立てることができない。

水戸地裁昭和37年2月1日判決 昭和36年(行)8号)

R 登記官が不動産登記法第49条第8号(申請書に必要なる書面又は図面を添付せさる とき)に違反する登記の申請を受理し、すでに登記を完了した後は、その処分は、異議の申立(現行法では審査請求)の対象とならない。(最高裁昭和37年3月16日判決 昭和34年(オ)788号)

 ※ 登記の申請が同法第49条第8号に該当する場合は、登記官吏は決定をもって申請を却下すべきことは同条の規定するところであるけれども、かかる申請も受理されて登記が完了した場合においては、登記官吏は職権をもってこれを抹消することのできないことは同法第149条の2(改正前)の規定するところである。

その法意は、かかる登記手続の形式的違法性の故にその登記を抹消するときは、かかる登記を信頼して取引をした第三者の利益を害することとなり、不動産取引の安全を害するのおそれなしとしないからである。

さらに、登記は、実質において、権利関係の実体と合致する以上、申請の手続において、形式的な瑕疵あるからといって当然に無効となるものでなく、たとえ訴をもってしてもかかる登記の抹消を請求することのできないことは、当裁判所判例(昭和29年(オ)第277号、同31年7月17日第三小法廷判決、民集10巻7号856頁、昭和28年(オ)第111号、同31年7月27日第2小法廷判決、民集10巻8号1122頁)の趣旨とするところであり、登記官吏はもとより実体的権利関係の存否について審査の権限をもたないものである(昭和33年(オ)第106号、同35年4月21日第1小法廷判決、民集14巻6号963頁参照)から、既に登記完了の後においては、かかる登記官吏の処分はもはや不動産登記法第150条(改正前)以下所定の異議の申立の対象とならないものと解するを相当とする(大正12年(ク)37号、同年3月28日大審院決定、民集2巻4号185頁、大正13年(ク)513号、同年11月14日大審院決定、民集3巻11号499頁参照)。

S 登記の申請が不動産登記法第49条第1号又は第2号以外の各号に該当する場合には、登記官は決定をもって当該申請を却下すべきであるが、かかる申請も受理されて登記が完了したときは、不動産登記法第150条(現行不動産登記法第152条)の異議(現行法では審査請求)の方法によってその登記の抹消を求めることは許されない。(最高裁昭和38年2月19日判決 昭和37年(オ)279号)

 ※ 登記の申請が不動産登記法第49条第1号または第2号以外の各号に該当する場合、登記官吏は決定をもって当該申請を却下すべきではあるが、かかる申請も受理されて登記が完了したときは、同法第152条の異議の方法によって登記官吏にその登記の抹消を求めることが許されないのは、当裁判所の判例の趣旨とするところである (昭和34年(オ)第788号、同37年3月16日第2小法廷判決、民集16巻3号567頁参照)。

しかして、不動産登記法第49条第1号は「事件カ登記所ノ管轄ニ属セサルトキ」と規定し、同第2号は「事件カ登記スヘキモノニ非サルトキ」と規定しているがここにいう「事件カ登記スヘキモノニ非サルトキ」とは、主として申請がその趣旨自体において法律上許容すべからざるこの明らかな場合をいうのであって(前掲判決参照)、所論の場合のごときは右の1号または2号のいずれにも該当しないと解すべきである。

T 行政庁である地方法務局長に対して違法な登記の抹消登記手続を求める訴は、不適法である。

青森地裁昭和32年7月15日判決 昭和31年(行)17号)

 

U 地方法務局長に対し、登記をしまたは登記簿を抹消閉鎖するよう登記官に命ずることを求める訴は、不適法である。

津地裁昭和32年11月15日判決 昭和32年(行)1号)

 ※ 司法権行政権に対する一般的な監督権を有するものではなく、行政訴訟においても、ただ単に行政庁の処分の適否を判断する権限を有するに過ぎない。三権分立の原則から云って裁判所は行政庁に対し一定の作為又は不作為を命ずることはできない。

V 異議決定庁にすぎない地方法務局長に対し登記の抹消登記手続を求める訴は、不適法である。

最高裁昭和38年2月19日判決 昭和37年(オ)279号)

W 登記官に対し、登記の取消を訴求することは許されない。(最高裁昭和42年5月25日判決 昭和41年(行ツ)92号)

※ 登記の申請が不動産登記法第49条各号の一に該当する場合は、登記官は決定をもって申請を却下すべきであるが、かかる申請も受理されて登記が完了した以上、同条1号または2号に該当する場合を除き、その登記が実体法上の権利関係と符合するかどうかを論ずるまでもなく、登記官において職権で当該登記を抹消することができないのはもとより(同法149条ないし151条)、登記官に対しその取消を訴求することも許されないものというべく(昭和37年3月16日最高裁判所第二小法廷判決、民集16巻3号567頁参照)、また、右49条2号の「事件カ登記スヘキモノニ非サルトキ」とは、主として申請がその趣旨自体において既に法律上許容すべからざること明らかな場合をいうものと解するのが相当であって(昭和6年2月6日大審院決定、民集10巻1号50頁参照)、上告人主張のごとく登記申請人が実体法上の権利者でないがごとき場合は、これに含まれないものといわなければならない。従って、所論のような場合は、当該登記名義人を被告として登記抹消訴訟を提起するほかなく、登記官を被告として登記の取消を求める本件訴訟は、その登記が実体法上の権利関係と符合するかどうかを論ずるまでもなく、請求自体理由がないとして、これを棄却すべきである。

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ちゅらさん」を見ながら、石垣の酒「白百合」を飲み始める。「白百合」は好みの味だ。
フーチャンプルーを食いたくなった。