地役権

地役権の設定された土地に、換地処分により、国が所有権を持つ換地が貼り付けられたとしても、土地改良法第63条第1項の規定により、当該地役権は存続する。
 
民法第280条以下の規定による地役権は、自己の土地の便益のために他人の土地を使用する権利である。
自己の土地の便益のために他人の土地を使用するには、他に賃借権や地上権に基づく使用があるが、これらの場合、賃借権者や地上権者は、他人の土地を排他的に占有することになり、一般には、その土地の所有権者といえども使用ができなくなる。
しかし、地役権が設定された土地については、地役権者の土地利用は、設定された範囲内に限られ、当該土地の所有権者や用益権者も土地を地役権者の権利を侵害しない範囲内で使用することができる。
地役権は、電力会社が送電線下の土地について、「家屋工作物を設置しない」、「送電線保守のための土地立ち入り」等を目的として設定した例が多い。

その上で、関係する法律を見てみると、まず、国有財産法第18条(地方自治法第238条の4も同旨)では、道路水路を含む行政財産には、電力会社を含む定められた法人のために設定された地上権以外の私権は設定できないと定められている。
一方、土地改良法第63条第1項では、換地計画に係る土地の上に存する地役権は、換地処分のあった旨の公告があった後でも、なお、従前の土地の上に存するとあり、その場合、新しい換地の所有者と地役権設定契約をまつまでもなく、換地処分の効果として、地役権の設定ができると解されている。
このため、工事の方法や換地処分のやり方によっては、これまで地役権が設定されていた土地を国が所有することが考えられ、上記の国有財産法と土地改良法との規定がぶつかる事態が生じうる。

この場合、次の理由により、当該地役権は存続すると考える。
国有財産法第1条では、国有財産の管理処分については、他の法律に特別の定めのある場合を除くほか、国有財産法のさだめるところによるとあり、土地改良事業に係る国有地の取扱いについては、土地改良法の諸規定が優先すると考えられるところ、第5条、第50条等で、国有地の取扱いの特例を設けている土地改良法が、第63条では、国有地の特例を設けておらず、この規定が国有地をも対象とした規定と解されること。
●仮に、国有財産法の適用があるとしても、国有財産法第18条の規定は新たな私権の設定についての規定と解され、既に存在する地役権については、適用されないと解されること。
●土地改良法第54条の3では、国有地の機能交換があった場合に、従前の土地に存する
地役権以外の権利は機能交換後の国有地に存するとされており、国有財産法の規定にかかわらず、私権が国有地の上に設定されたままになる取扱いとなっており、換地処分において、地役権のみが消滅しなければならないという解釈はとりがたいこと。
また、土地改良登記令第18条の4で国有地上の地役権存続を前提とした登記手続が定められていること。
(なお、農地法第52条、第54条では、自作農創設のため、国が買収した土地に設定してある権利は原則として消滅するが、送電線維持等のための地役権等は消滅しないとされている。)
●国が所有することとなる土地の上に地役権が設定される可能性があることは、国は全く知りえない立場ではなく、土地改良法第5条等の規定による国有地編入同意の事務処理の過程で知ることができ、それを踏まえて同意不同意の意思表示ができる。
更に、工事の計画、換地の選定等の手続を通じて、その換地予定地と地役権設定地との関係把握のうえ、権利者として同意不同意の判断ができること。
●現実に、道路水路の上に送電線があり、かつ、地役権が設定された場合に、国が地役権消滅を求めなければならないほどの損害を被ることは考えられないこと。
なお、土地改良事業においては土地の形状が一変するため、送電線に係る地役権以外の地役権は、その行使の利益を失い、国有財産法の規定をまつまでもなく、土地改良法第63条第2項の規定により消滅するものがほとんどと思われる。 


しかしながら、送電線に係る地役権が、換地処分により、国有地である道路水路上にかかるという、最もしばしば見られるケースにおいては、道路水路は、送電線維持に支障を生じる工作物の設置が想定されない施設であり、将来にわたり、当該土地が道路水路以外の用途に使用される見込みはなく(新たに地役権設定の交渉等を行う必要がない)、使用許可によって設置が維持できるといった理由などにより、電力会社において、あえて、当該土地に係る地役権を設定しておくには及ばないと考えるのであれば、換地処分の際、土地改良法第63条第2項の規定により、地役権行使の利益がなくなったとして、地役権の消滅とその旨の登記を行うこともありうるのではないかと思われる。
なお、この場合、電力会社は換地計画について、土地改良法第52条の3等の規定による不服申立ては可能であり、地役権設定の有無に係る救済手段はある。